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いっぱいいっぱい好きなひと
なかよし
おおかたの大学の受験が終了した日。
もうすぐ卒業で、しばしの連休前、春うららかな日々、
ひとり教室に残って、ぼんやりと、
綺麗に拭かれた黒板を見ていた俺は、
うん、とのびをして、立ち上がった。
そろそろ帰ろう。
大学に合格した日を思い出す。
俺の合格じゃない。細川の。
顔を真っ赤にして、嬉しそうに、鼻息荒く、
きょうね、ごうかくつうちがきたよ、と言った細川。
良かったねぇ、と頭を撫でると、えへへ、えへへ、と笑った。
よっぽど嬉しかったんだろう。
受験前の数ヶ月は、本当に狂ったように勉強ばっかしていたから、
俺もほっと胸をなでおろした。
細川は推薦入学試験で、大学が決まった。
12月頃の話だ。
もともと俺とは違って学年上位の成績で、
先生の物覚えも良かったから、すんなり決まるだろうと想っていたのだけど、
細川があんまり不安がって、俺の傍にばっかりいたがるようになって、
このままじゃ合格の前に細川が壊れちまうんじゃないかと想って
怖かった。嬉しそうな細川をぎゅうっと抱きしめて、パパはまた泣いたらしい。
細川から話を聞くと、パパはないてばっかりいてちょっとおかしい。
俺も細川を抱きしめた。ぎゅっとぎゅっと抱きしめて、おめでとうと言った。
かくいう俺の方はというと、
もともと受験する気持ちはこれっぽっちもなく、
(お金がないものだから)
就職するつもりでいた。
昨日やっと就職先が決まった。
もともと調大獣士(大獣と呼ばれる、百獏とか、角大蛇とかの大型の獣を、友獣(人の生涯にわたって付き添う、守護獣)や、戦獣(騎士等が飼う、戦闘用の獣)に育て上げる仕事、調教士)になりたくて、そっち系で仕事をさがしていたのだけど、
いつも人手不足のこの職業、
人の隙間はあるけれど、若年で経験のない俺は嫌厭されがちで、
調大獣士は獣に襲われて死亡する率も高いし、
若年だと獣が舐めてしまうし、といろいろ断られた。
結局調大獣士ではなく普通の調獣士(小型の獣の調教士)に職が決まって、
それでもかけはなれた職ではないから、
虎視眈々とレベルアップを狙うか、と
胸をなでおろしている。
細川に内定が決まったよ、と知らせると
破顔して喜んでいた。
おいわいしなくちゃ、おいわい、とはしゃいで、
ドアに頭をぶつけていた。
その様子を思い出して、少しにやにやしていたらしい、
細川のことを考えると、
はっと気がつくとほほがゆるんでいて、困ってしまう。
さて、あいつはどこいったのかな。
一緒に帰ろうと言っていたから、校内にはいるはずなんだけど。
ふと、2組の前を通り過ぎるとき、中の景色に目をうばわれた。
二人の少年、谷山と……竹内。
ぎこちなく、ぎこちなく、そおっとお互いの唇に、唇をつけていた。
魅入っていたらしい、
竹内がはなれて、ふうっと安堵したようにため息をついて、
俺に気がついた。
「……………………!!!!!!!!!!!!!!!」
竹内の顔が首まで真っ赤になる。
谷山が、?と言う顔で振り向こうとする。
慌てて俺はそこから去った。
ごめんごめん、と心で謝りながら。
少し歩くと、後ろから走ってくる足音がした。
細川かな。危ないな、走るなっていってるのに。
少し微笑んで振り返ると、
竹内が、ほっぺを赤くしたまま、こっちに来るところだった。
「こ、小江」
ぜいぜいと息をつきながら、俺の前で立ち止まる。
「小江、あ、あの、さっき、見た?」
「んー、あー
ま、なんだ」
ちょっと焦ってごほっと咳払いする。
「仲良きことは美しきかな」
「…………」
いきなり竹内が吹き出した。
「な、
なかよきことはって」
けらけら笑う。可愛い顔で。俺はなぜか、その顔を見て、満足した。
うん、良かった。
良かった。
「ありがと」
急に竹内が、笑いやめて、それでも微笑みながら、俺に言った。
「ありがと」
「?
俺、なんにもしてないよ」
「いろいろしてくれたじゃん。
相談にのってくれたり。
かばってくれたり」
「そうかなぁ」
ぽりぽりと頭をかく。
「礼をいうことなんかないぜ。
このにーさんは照れちまうぜ」
「照れなくていいよ」
くすくす笑いながら、いきなり、竹内が俺の顔をひきよせた。
そのまま、唇を俺のほほにあわせる。
びっくりして動けずにいると、竹内はすぐにはなれて、
「お礼」
と一言言った。
「じゃ、またね、今度は卒業式に」
「お、おう」
「ばいばい、気をつけてね、小江」
「おう」
ばいばーいと手を振って、なんかどうもにやけてしまうな。
人が幸せだと嬉しい物だ。
振り返ると、角から細川が出て来た。
俺を見つけて、少し寂しげに微笑む。
ちょっと、いや、すっごく焦った。
見られた?勘違いされた?
慌てて傍によって
「あ、あのな、細川な、あれは誤解……」
「ん?なんのこと?今誰かいたの?」
顔が固まってますよ、おにーさん。
「竹内がお礼なんだって、だから、好きとかそういうんじゃ」
「わけわかんねぇ、
小江、なに言ってんだよ。
それより探したんだぞ、どこいってたんだよ」
声だけ聞くと、本当に何も知らないように聞こえるけど、
うう、目が怒ってるんだよお。
「細川、ほんとに」
「もう、いいよ。
帰ろうぜ、小江。
パパが心配するじゃん」
「ううー怒ってない?細川」
「だから、なにが。
怒ってねーよ、行こう」
「細川ー」
どうすることもできず、
手をぐいぐいとひかれながら、
絶対勘違いした、絶対怒ってる、どうしよう、と考えていた。
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もうすぐ卒業で、しばしの連休前、春うららかな日々、
ひとり教室に残って、ぼんやりと、
綺麗に拭かれた黒板を見ていた俺は、
うん、とのびをして、立ち上がった。
そろそろ帰ろう。
大学に合格した日を思い出す。
俺の合格じゃない。細川の。
顔を真っ赤にして、嬉しそうに、鼻息荒く、
きょうね、ごうかくつうちがきたよ、と言った細川。
良かったねぇ、と頭を撫でると、えへへ、えへへ、と笑った。
よっぽど嬉しかったんだろう。
受験前の数ヶ月は、本当に狂ったように勉強ばっかしていたから、
俺もほっと胸をなでおろした。
細川は推薦入学試験で、大学が決まった。
12月頃の話だ。
もともと俺とは違って学年上位の成績で、
先生の物覚えも良かったから、すんなり決まるだろうと想っていたのだけど、
細川があんまり不安がって、俺の傍にばっかりいたがるようになって、
このままじゃ合格の前に細川が壊れちまうんじゃないかと想って
怖かった。嬉しそうな細川をぎゅうっと抱きしめて、パパはまた泣いたらしい。
細川から話を聞くと、パパはないてばっかりいてちょっとおかしい。
俺も細川を抱きしめた。ぎゅっとぎゅっと抱きしめて、おめでとうと言った。
かくいう俺の方はというと、
もともと受験する気持ちはこれっぽっちもなく、
(お金がないものだから)
就職するつもりでいた。
昨日やっと就職先が決まった。
もともと調大獣士(大獣と呼ばれる、百獏とか、角大蛇とかの大型の獣を、友獣(人の生涯にわたって付き添う、守護獣)や、戦獣(騎士等が飼う、戦闘用の獣)に育て上げる仕事、調教士)になりたくて、そっち系で仕事をさがしていたのだけど、
いつも人手不足のこの職業、
人の隙間はあるけれど、若年で経験のない俺は嫌厭されがちで、
調大獣士は獣に襲われて死亡する率も高いし、
若年だと獣が舐めてしまうし、といろいろ断られた。
結局調大獣士ではなく普通の調獣士(小型の獣の調教士)に職が決まって、
それでもかけはなれた職ではないから、
虎視眈々とレベルアップを狙うか、と
胸をなでおろしている。
細川に内定が決まったよ、と知らせると
破顔して喜んでいた。
おいわいしなくちゃ、おいわい、とはしゃいで、
ドアに頭をぶつけていた。
その様子を思い出して、少しにやにやしていたらしい、
細川のことを考えると、
はっと気がつくとほほがゆるんでいて、困ってしまう。
さて、あいつはどこいったのかな。
一緒に帰ろうと言っていたから、校内にはいるはずなんだけど。
ふと、2組の前を通り過ぎるとき、中の景色に目をうばわれた。
二人の少年、谷山と……竹内。
ぎこちなく、ぎこちなく、そおっとお互いの唇に、唇をつけていた。
魅入っていたらしい、
竹内がはなれて、ふうっと安堵したようにため息をついて、
俺に気がついた。
「……………………!!!!!!!!!!!!!!!」
竹内の顔が首まで真っ赤になる。
谷山が、?と言う顔で振り向こうとする。
慌てて俺はそこから去った。
ごめんごめん、と心で謝りながら。
少し歩くと、後ろから走ってくる足音がした。
細川かな。危ないな、走るなっていってるのに。
少し微笑んで振り返ると、
竹内が、ほっぺを赤くしたまま、こっちに来るところだった。
「こ、小江」
ぜいぜいと息をつきながら、俺の前で立ち止まる。
「小江、あ、あの、さっき、見た?」
「んー、あー
ま、なんだ」
ちょっと焦ってごほっと咳払いする。
「仲良きことは美しきかな」
「…………」
いきなり竹内が吹き出した。
「な、
なかよきことはって」
けらけら笑う。可愛い顔で。俺はなぜか、その顔を見て、満足した。
うん、良かった。
良かった。
「ありがと」
急に竹内が、笑いやめて、それでも微笑みながら、俺に言った。
「ありがと」
「?
俺、なんにもしてないよ」
「いろいろしてくれたじゃん。
相談にのってくれたり。
かばってくれたり」
「そうかなぁ」
ぽりぽりと頭をかく。
「礼をいうことなんかないぜ。
このにーさんは照れちまうぜ」
「照れなくていいよ」
くすくす笑いながら、いきなり、竹内が俺の顔をひきよせた。
そのまま、唇を俺のほほにあわせる。
びっくりして動けずにいると、竹内はすぐにはなれて、
「お礼」
と一言言った。
「じゃ、またね、今度は卒業式に」
「お、おう」
「ばいばい、気をつけてね、小江」
「おう」
ばいばーいと手を振って、なんかどうもにやけてしまうな。
人が幸せだと嬉しい物だ。
振り返ると、角から細川が出て来た。
俺を見つけて、少し寂しげに微笑む。
ちょっと、いや、すっごく焦った。
見られた?勘違いされた?
慌てて傍によって
「あ、あのな、細川な、あれは誤解……」
「ん?なんのこと?今誰かいたの?」
顔が固まってますよ、おにーさん。
「竹内がお礼なんだって、だから、好きとかそういうんじゃ」
「わけわかんねぇ、
小江、なに言ってんだよ。
それより探したんだぞ、どこいってたんだよ」
声だけ聞くと、本当に何も知らないように聞こえるけど、
うう、目が怒ってるんだよお。
「細川、ほんとに」
「もう、いいよ。
帰ろうぜ、小江。
パパが心配するじゃん」
「ううー怒ってない?細川」
「だから、なにが。
怒ってねーよ、行こう」
「細川ー」
どうすることもできず、
手をぐいぐいとひかれながら、
絶対勘違いした、絶対怒ってる、どうしよう、と考えていた。