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2004
> つきあかり、あのひ、なみだ
つきあかり、あのひ、なみだ
癒し~季志~
雨が降っていた、
目覚めて真っ先に、雨が降っていると思った
木としっくいの壁でできた部屋は、
雨の湿気をゆっくり吸って、少しじめじめしている
傷跡のある人は
雨が降ると、痛むと言う
それと同じように、闇虫も、いつもより饒舌に騒いでいる
ふっと、途切れるような絶望と、
悲しさじゃない、切なさじゃない、言うなれば寂しさのような感情で
春はそこをなでた
でこぼこして、蠢いている虫の感触が手に残る
悠は、何も言わなかった
気づいていないのかもしれない
季志で慣れているのかもしれない
少し伸びをして、吐息をつき、
たたんでおいた服に着替える
悠も季志も、お金には困ってないらしい
春が当分暮らせるだけのものは、十分に用意された
ここに連れてこられて、3日のうちになされた
誰のお金かは、聞いたことが無い
なんとなく悠側のではないかと思っている
そう言えば、一番最初、夜見た時に、
廃屋だと思ったこの場所も、どうやらきちんとした「やしき」のようだ
少し古くて、壊れかけているけれど、
ガス、水道、電気はなんだかちゃんと機能している
セーターを着込むと、
朝つくようにしておいたストーブのスイッチを切って、
季志の部屋に向かった
朝ご飯は季志の部屋で。
悠が用意することになっている
手伝おうと思って申し出ても、悠はむすっと拒否する
(あの顔……、「地」なのかなぁ)
昨日のことを思い出しながら、春は歩いた
怒っている訳じゃないのかもしれない
鬼の話に思い出が流れて、春はくすっと笑った
きぃっと闇虫がないた
水を差されて、春は眉をひそめた
悠が気づいているかもしれないと言う不安が、またわき上がってくる
季志の部屋に入ると、季志は首だけ持ち上げて、
春を見た。
春とは比べ物にならない闇虫が、ぎぃぎぃとざわめく
「悠、寝坊しているみたい、まだこないよ」
「へぇ」
驚いきながらも、春は床に春の座布団をしいて、座った
少し沈黙
雨の音が、しとしと部屋に満ちている
「僕、朝ご飯の用意……」
「あーしないで、春。
ここねぇ、キッチン、変なんだ、
ちょっと使いにくくてね、
慣れてないとあちこちぶつけるし。
春にそんな目にあってほしくないから」
手をはたはたふって、季志が笑った
季志の笑みは温かい
穏やかで、水に広がる波紋のように浸透する
昨日の悠の笑みは、あでやかだった
花が咲いたみたいに
思い出しながら、春が言う
「神崎、おこしてこよ」
「あ、やめて、春」
くすくすと季志が目を細める
「慌てるの、見てようよ、どんな顔するか、見てみたい」
ききっと、季志の闇虫が叫んだ
笑ったように
「ちょっと意地悪じゃない?」
春もちょっとだけ笑って、言ってみる
「いいんだ、あいつなんかいつも無表情で、面白くないだろ、
たまには感情出せよ、っつってんだけど、
どうやって出したらいいかわかんないとか言うし、あほだから」
変な理由を季志は言う
「やっぱりむすっとしているわけじゃないんだ」
「あーそう見える?やっぱり?
なんかなー絶対損してるよな、
笑うとかわいいの、知ってた?」
「うん、昨日知った」
「それまでどう思ってた?」
「コワイヒト」
季志がげらげら笑う
つられて春もくすくす笑う
「いいやつなんだぜ、
一途だし。馬鹿だし」
「ばかなの?」
「ばかだよー自分のことさえよくわかってないから。あいつ」
「へぇ」
季志の部屋にはポッドが置いてある
動けない季志のために、飲みやすいように、
水と、お湯と、ティパックが用意してあるのだ
「お茶飲む?」
春は聞きながら、ティパックをカップにいれて
それを二つ用意する
「ありがとう」
目でその動きをうれしそうに追いながら、
季志が言った
ちゃぽちゃぽとお湯を出すと、
湯気がふわっとわいた
いいにおいがただよって
おなかがきゅうっと音たてた、
これは闇虫ではない、おなかの空いた音
「邱田と、神崎は、……」
その後が続けられない、
どう言っていいのだろう、どういう関係?
友達に決まっている
そうじゃなくて……
でも何が聞きたいのだろう?
「あー恋人?かなー」
「こいビト?」
察してくれた季志が、あっさり言った
どうやら春は、びっくりすることを聞くと思考が停止するらしい
自分でそのことに半分気がつきながら、ぽかんと口を開ける
「こいびとって……男同士で?」
「あれー、おくれてるな、春、そういうのに理解のないほう?」
「んーん、びっくりしただけ……
そういうの、あるんだ」
「あるねー、
ありがとう」
紅茶を受け取りながら、季志が微笑む
「俺たちはどちらかっていうと、
恋人っていうより、セフレって言った方がいいかもしれない」
「セフレ……?って?」
「…………」
季志の目が、何か、面白いものを見つけたように細くなる
「悠に聞いてご覧、親切に教えてくれるよ」
「季志は教えてくれないの?」
「あげない。」
なんだか悲しそうに季志は言った
「あげれない」
「?
そうなの」
「うん」
「悪いっ!!!!!!」
ばったんと、扉が開いた
なんだか目がまんまるくなっている、悠が立っていた
「寝坊した」
「おはよー悠」
「おはようございます」
「すぐめし作るから」
「んーばつとして俺はパン3枚ね」
「食いきれないだろ」
「おなか空いてるから食べれるよ」
「あ、僕も3枚」
春が急いで言った
その様子をまじまじ見ていた悠が、ぱっと、笑った
新春に、一番の花が咲いたような笑顔だった
春は山に咲く、大好きな桃色の花を思い浮かべた
「ごめんな、すぐ作るから」
「手伝う?」
「座ってろって、季志の相手して」
「そー春ちゃん、ぼくちゃん、さみしぃーの、
あいてしてして」
「やだ……も」
くすくすと春は笑う
おなかがころころなった
闇虫がきぃきぃ言った
悠の食事はおいしい
聞いたら、慣れているから、と言っていた
実家で、何日かにいっぺん、食事当番が回ってくるらしい
料理自体は好きでも嫌いでもないらしくて、
昼だけは店屋物をとって、
夜と朝、悠が作った
午前11時。
朝食を食べたのが、10時。
この屋敷の朝は早い
その理由は春はわかっている
闇虫を体に飼っていると、朝はどうしても早くなる
闇虫の鳴き声と、ざわめきに、神経が目覚めてしまうのだ
寝ようとすると、悪夢を見る
春でさえそうなのだから、
大量に憑かれている季志はなおさらだろう、
それでも
やることもないし、早くに寝るので、
辛くはない
家で、責められて泣いて、なじられて、
よく眠れなかった時より、ずっとらくだと思う
おなかがいっぱいになっているのを感じながら、
読書をしていた春は、ふと、顔を上げた
闇虫が、なんだか落ち着かないようにざわめいていた
なにかが起こっている、と思った
不安になって、春は立ち上がり、
そっと扉をあけて、廊下に出た
湿った空気が、淀んでいる
闇虫は、季志の部屋に近寄ると、余計にざわめいた
不安がいっそう強くなる
心臓がドキドキした、手のひらがじっとりと汗ばむ
声をかけてドアを開けようとして、
中でくぐもった悲鳴があがるのを聞いた
春はノブにかける手を止めた
……!!……っ
……季志……
かすかに漏れる、季志と悠の声
あけるのを、なんだか躊躇するような声だった
悠っ……くそっ……いっ
……季志……はっ……かわいい……
あっちっちきしょ……きもちっっ……いいっ
季志っ……季志っ……
ドキドキした
おなかの闇虫が、いままでにないぐらい騒いでいる
やっとわかった、
(してるんだ)
そういうことを、春は知識としては知っていた
男同士でどうするかはわからない
本当に基本的な知識しか知らない春は、
自分でしたことも、ましてや他の人としたことなど、
一度も無い
かっ…かじるなっ…いっあっ
ここっ?ここがいいのか?
あっそこっそこ……もっとっ……
季志が泣いたような声を出す
春はぎょっとなった。自分のものが、ふくらんできているのがわかった
闇虫が、その鼓動にあわせて騒いでいるように思える
はあっ……あっあうんっ……
どろどろになってる……っいれるよ…、いいか?
うんっ……はっ
……
……うううっうぐうううううううっ
あっはいるっああっ
あっくっ
いいあああっあああっあああああ
くっはっはっ
ぎしぎしと、ベッドのきしむ音がする
それに絡み付くような、ねばっこい、季志の闇虫の音も
気がついたら、春は痛いほど高ぶっていた
おなかの闇虫がうるさい
どうしていいか、わからなかった
自慰のやり方など、春は知らない
ふらふらと、そこを離れる
なんとか歩いて
歩くたびにずきずきして、
部屋に戻って、扉を閉めて、
ベッドに倒れ込んだ
「はっ……はっ……」
そっとそこをこすってみた
びくびくっと、全身に電流が走るように、快楽がうまれる
無意識のうちに、春はそこをベッドにすりつけていた
頭の中で、さっきの季志の喘ぎ声と、悠の声がうかぶ
「はっ……あっ……うう」
だんだんと快楽が渦を巻いて、体にとどまる
何かを目指すように、春は動く
闇虫が、きぃ、きぃとないた
「ううっ」
急に、強い快楽が迫って、
春はそこから何かが吐き出されたのを感じた
そこを強くベッドに押し付けると、
びくん、びくんと、足が動いた
(しゃせい……)
「あっ……はっはっ……はあっ……」
闇虫が騒いでいるらしい、
いつもの鳴き方じゃない、
もっときつい、快楽をむさぼるような……
今の春には、それさえ遠い出来事だった
12時
もうすぐお昼になる
あれから30分後、
泣きそうな顔で、春は鏡を見ていた
洋服をめくって、脇腹の闇虫をじっと見る
「広がってる……」
聞いたことがあった、
自慰などをすると、闇虫は広がる
そしてまた、一度快楽を覚えると、
次々とそれを要求する。
それは発作となって、宿り主の体を浸食する
「どうしよう」
だしきった後だ、今はまだ彼らは騒いでいないけれど、
その発作、要求の発作はいつくるのだろうか
そしてまた、春はそれを押さえることができるのだろうか
涙がにじんだ、
自分は大変なことをしてしまったのだ
もう取り返しがつかない
いつか、春も季志のように全身をくまなく覆われる
その時、季志には悠がいるけれど、春には誰もいない
誰もいない
春は肩を抱いて、自分が震えているのをなんとか押さえようとした
心底怖かった
闇の孤独に、落ちる気がした
こんこん、とノックの音
「春、お昼だぞ」
悠の声だ
「はい」
かすれた声で返事をして、
春はティッシュをとって、鼻をかんだ
くよくよ悩んでも仕方が無い。
なんとかしなければならない。
(
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癒し~季志~
雨が降っていた、
目覚めて真っ先に、雨が降っていると思った
木としっくいの壁でできた部屋は、
雨の湿気をゆっくり吸って、少しじめじめしている
傷跡のある人は
雨が降ると、痛むと言う
それと同じように、闇虫も、いつもより饒舌に騒いでいる
ふっと、途切れるような絶望と、
悲しさじゃない、切なさじゃない、言うなれば寂しさのような感情で
春はそこをなでた
でこぼこして、蠢いている虫の感触が手に残る
悠は、何も言わなかった
気づいていないのかもしれない
季志で慣れているのかもしれない
少し伸びをして、吐息をつき、
たたんでおいた服に着替える
悠も季志も、お金には困ってないらしい
春が当分暮らせるだけのものは、十分に用意された
ここに連れてこられて、3日のうちになされた
誰のお金かは、聞いたことが無い
なんとなく悠側のではないかと思っている
そう言えば、一番最初、夜見た時に、
廃屋だと思ったこの場所も、どうやらきちんとした「やしき」のようだ
少し古くて、壊れかけているけれど、
ガス、水道、電気はなんだかちゃんと機能している
セーターを着込むと、
朝つくようにしておいたストーブのスイッチを切って、
季志の部屋に向かった
朝ご飯は季志の部屋で。
悠が用意することになっている
手伝おうと思って申し出ても、悠はむすっと拒否する
(あの顔……、「地」なのかなぁ)
昨日のことを思い出しながら、春は歩いた
怒っている訳じゃないのかもしれない
鬼の話に思い出が流れて、春はくすっと笑った
きぃっと闇虫がないた
水を差されて、春は眉をひそめた
悠が気づいているかもしれないと言う不安が、またわき上がってくる
季志の部屋に入ると、季志は首だけ持ち上げて、
春を見た。
春とは比べ物にならない闇虫が、ぎぃぎぃとざわめく
「悠、寝坊しているみたい、まだこないよ」
「へぇ」
驚いきながらも、春は床に春の座布団をしいて、座った
少し沈黙
雨の音が、しとしと部屋に満ちている
「僕、朝ご飯の用意……」
「あーしないで、春。
ここねぇ、キッチン、変なんだ、
ちょっと使いにくくてね、
慣れてないとあちこちぶつけるし。
春にそんな目にあってほしくないから」
手をはたはたふって、季志が笑った
季志の笑みは温かい
穏やかで、水に広がる波紋のように浸透する
昨日の悠の笑みは、あでやかだった
花が咲いたみたいに
思い出しながら、春が言う
「神崎、おこしてこよ」
「あ、やめて、春」
くすくすと季志が目を細める
「慌てるの、見てようよ、どんな顔するか、見てみたい」
ききっと、季志の闇虫が叫んだ
笑ったように
「ちょっと意地悪じゃない?」
春もちょっとだけ笑って、言ってみる
「いいんだ、あいつなんかいつも無表情で、面白くないだろ、
たまには感情出せよ、っつってんだけど、
どうやって出したらいいかわかんないとか言うし、あほだから」
変な理由を季志は言う
「やっぱりむすっとしているわけじゃないんだ」
「あーそう見える?やっぱり?
なんかなー絶対損してるよな、
笑うとかわいいの、知ってた?」
「うん、昨日知った」
「それまでどう思ってた?」
「コワイヒト」
季志がげらげら笑う
つられて春もくすくす笑う
「いいやつなんだぜ、
一途だし。馬鹿だし」
「ばかなの?」
「ばかだよー自分のことさえよくわかってないから。あいつ」
「へぇ」
季志の部屋にはポッドが置いてある
動けない季志のために、飲みやすいように、
水と、お湯と、ティパックが用意してあるのだ
「お茶飲む?」
春は聞きながら、ティパックをカップにいれて
それを二つ用意する
「ありがとう」
目でその動きをうれしそうに追いながら、
季志が言った
ちゃぽちゃぽとお湯を出すと、
湯気がふわっとわいた
いいにおいがただよって
おなかがきゅうっと音たてた、
これは闇虫ではない、おなかの空いた音
「邱田と、神崎は、……」
その後が続けられない、
どう言っていいのだろう、どういう関係?
友達に決まっている
そうじゃなくて……
でも何が聞きたいのだろう?
「あー恋人?かなー」
「こいビト?」
察してくれた季志が、あっさり言った
どうやら春は、びっくりすることを聞くと思考が停止するらしい
自分でそのことに半分気がつきながら、ぽかんと口を開ける
「こいびとって……男同士で?」
「あれー、おくれてるな、春、そういうのに理解のないほう?」
「んーん、びっくりしただけ……
そういうの、あるんだ」
「あるねー、
ありがとう」
紅茶を受け取りながら、季志が微笑む
「俺たちはどちらかっていうと、
恋人っていうより、セフレって言った方がいいかもしれない」
「セフレ……?って?」
「…………」
季志の目が、何か、面白いものを見つけたように細くなる
「悠に聞いてご覧、親切に教えてくれるよ」
「季志は教えてくれないの?」
「あげない。」
なんだか悲しそうに季志は言った
「あげれない」
「?
そうなの」
「うん」
「悪いっ!!!!!!」
ばったんと、扉が開いた
なんだか目がまんまるくなっている、悠が立っていた
「寝坊した」
「おはよー悠」
「おはようございます」
「すぐめし作るから」
「んーばつとして俺はパン3枚ね」
「食いきれないだろ」
「おなか空いてるから食べれるよ」
「あ、僕も3枚」
春が急いで言った
その様子をまじまじ見ていた悠が、ぱっと、笑った
新春に、一番の花が咲いたような笑顔だった
春は山に咲く、大好きな桃色の花を思い浮かべた
「ごめんな、すぐ作るから」
「手伝う?」
「座ってろって、季志の相手して」
「そー春ちゃん、ぼくちゃん、さみしぃーの、
あいてしてして」
「やだ……も」
くすくすと春は笑う
おなかがころころなった
闇虫がきぃきぃ言った
悠の食事はおいしい
聞いたら、慣れているから、と言っていた
実家で、何日かにいっぺん、食事当番が回ってくるらしい
料理自体は好きでも嫌いでもないらしくて、
昼だけは店屋物をとって、
夜と朝、悠が作った
午前11時。
朝食を食べたのが、10時。
この屋敷の朝は早い
その理由は春はわかっている
闇虫を体に飼っていると、朝はどうしても早くなる
闇虫の鳴き声と、ざわめきに、神経が目覚めてしまうのだ
寝ようとすると、悪夢を見る
春でさえそうなのだから、
大量に憑かれている季志はなおさらだろう、
それでも
やることもないし、早くに寝るので、
辛くはない
家で、責められて泣いて、なじられて、
よく眠れなかった時より、ずっとらくだと思う
おなかがいっぱいになっているのを感じながら、
読書をしていた春は、ふと、顔を上げた
闇虫が、なんだか落ち着かないようにざわめいていた
なにかが起こっている、と思った
不安になって、春は立ち上がり、
そっと扉をあけて、廊下に出た
湿った空気が、淀んでいる
闇虫は、季志の部屋に近寄ると、余計にざわめいた
不安がいっそう強くなる
心臓がドキドキした、手のひらがじっとりと汗ばむ
声をかけてドアを開けようとして、
中でくぐもった悲鳴があがるのを聞いた
春はノブにかける手を止めた
……!!……っ
……季志……
かすかに漏れる、季志と悠の声
あけるのを、なんだか躊躇するような声だった
悠っ……くそっ……いっ
……季志……はっ……かわいい……
あっちっちきしょ……きもちっっ……いいっ
季志っ……季志っ……
ドキドキした
おなかの闇虫が、いままでにないぐらい騒いでいる
やっとわかった、
(してるんだ)
そういうことを、春は知識としては知っていた
男同士でどうするかはわからない
本当に基本的な知識しか知らない春は、
自分でしたことも、ましてや他の人としたことなど、
一度も無い
かっ…かじるなっ…いっあっ
ここっ?ここがいいのか?
あっそこっそこ……もっとっ……
季志が泣いたような声を出す
春はぎょっとなった。自分のものが、ふくらんできているのがわかった
闇虫が、その鼓動にあわせて騒いでいるように思える
はあっ……あっあうんっ……
どろどろになってる……っいれるよ…、いいか?
うんっ……はっ
……
……うううっうぐうううううううっ
あっはいるっああっ
あっくっ
いいあああっあああっあああああ
くっはっはっ
ぎしぎしと、ベッドのきしむ音がする
それに絡み付くような、ねばっこい、季志の闇虫の音も
気がついたら、春は痛いほど高ぶっていた
おなかの闇虫がうるさい
どうしていいか、わからなかった
自慰のやり方など、春は知らない
ふらふらと、そこを離れる
なんとか歩いて
歩くたびにずきずきして、
部屋に戻って、扉を閉めて、
ベッドに倒れ込んだ
「はっ……はっ……」
そっとそこをこすってみた
びくびくっと、全身に電流が走るように、快楽がうまれる
無意識のうちに、春はそこをベッドにすりつけていた
頭の中で、さっきの季志の喘ぎ声と、悠の声がうかぶ
「はっ……あっ……うう」
だんだんと快楽が渦を巻いて、体にとどまる
何かを目指すように、春は動く
闇虫が、きぃ、きぃとないた
「ううっ」
急に、強い快楽が迫って、
春はそこから何かが吐き出されたのを感じた
そこを強くベッドに押し付けると、
びくん、びくんと、足が動いた
(しゃせい……)
「あっ……はっはっ……はあっ……」
闇虫が騒いでいるらしい、
いつもの鳴き方じゃない、
もっときつい、快楽をむさぼるような……
今の春には、それさえ遠い出来事だった
12時
もうすぐお昼になる
あれから30分後、
泣きそうな顔で、春は鏡を見ていた
洋服をめくって、脇腹の闇虫をじっと見る
「広がってる……」
聞いたことがあった、
自慰などをすると、闇虫は広がる
そしてまた、一度快楽を覚えると、
次々とそれを要求する。
それは発作となって、宿り主の体を浸食する
「どうしよう」
だしきった後だ、今はまだ彼らは騒いでいないけれど、
その発作、要求の発作はいつくるのだろうか
そしてまた、春はそれを押さえることができるのだろうか
涙がにじんだ、
自分は大変なことをしてしまったのだ
もう取り返しがつかない
いつか、春も季志のように全身をくまなく覆われる
その時、季志には悠がいるけれど、春には誰もいない
誰もいない
春は肩を抱いて、自分が震えているのをなんとか押さえようとした
心底怖かった
闇の孤独に、落ちる気がした
こんこん、とノックの音
「春、お昼だぞ」
悠の声だ
「はい」
かすれた声で返事をして、
春はティッシュをとって、鼻をかんだ
くよくよ悩んでも仕方が無い。
なんとかしなければならない。